テレビゲームへの正しい理解を
佐々木 輝美教授インタビュー
(国際基督教大学教授)

第1回 「楽しめればいい」というだけではなく、創造性を育てられるゲームを

佐々木 輝美教授どう描き、どう導いていくべきか

――先生の専攻分野について教えてください。

佐々木:コミュニケーション学といって、基本は「自分の思っていることを、いかに伝えるか」ということなんです。ただ、学んでいく過程で、「コミュニケーション学はなにかの領域で応用しないと、成り立っていかないものだな」と実感したときがあったんです。教育の方に移ったのは、そういう理由があったからなんですよ。

では、どう教育に活かすかといえば、わかりやすくいうと「子どもたちに、伝えたいと思っている内容をどうやったらうまく伝えられるか」という考え方をすることなんですね。そして伝えるに際しては言葉の選択や構成も大切になってきますし、さらには言葉によるメッセージだけでなく、「どのメディアをどういうふうに使えば、子どもたちに伝わるか?」という問題が出てくる。そう考えたとき、ゲームを有力なメディアの一つとして意識しているんです。

――先生の専門分野に、ゲームを活かす余地はありますか?

佐々木:いっぱいありますねえ。繰り返しになりますがコミュニケーション学というのは、たとえば相手に注目させて「おいでおいで。おもしろいよ」って引き寄せながら本題に入っていって、「ほら、けっこうやさしいでしょ」と導いていくことなんです。そして本当に偶然ですけれども、ゲームでも同じことをやっているんだと思うんですよ。そういう意味でもゲームの持つ可能性はすごく大きいと思うし、だからこそその内容が大事なんです。

――過去に『メディアと暴力』という著作を残されていますが、そこで訴えたかったことは?

佐々木:あの本ではテレビのことを取り上げたんですが、70〜80年代当時のアメリカではテレビの悪影響について、考え方が二つに分かれたんです。まずは「暴力でも性でも、どんどん見せた方がいいんじゃないか。見せることで欲求が発散されるんじゃないか」っていう意見。もうひとつはそれとは対極で、「見た行動をそのまま学習しちゃうんじゃないか?」ということですね。

見せることで欲求が発散されるのか、それとも学習しちゃうのかについて、本当は「こっちだ!」って断言したかったんですけれども、調べているうちに「メディアの内容による」という結果に行き着いてしまったんです。ですから私があの本で言いたかったのは、「メディアのなかでどんなふうに描いていけばいいのかを考えることが大事だ」ということだったんです。

――ゲームと暴力の関係性についてはどうお考えですか?

佐々木:ゲームのなかには、暴力シーンが頻繁に出てきますよね。では、なぜ出てくるのかといえば、やはり「注目させたいから」だと思うんです。おそらく、ゲームをつくる方に悪い人はあまりいないと思うんですけれどね。でも悪意ではなく、「注目されて売れてほしい」という観点から注意をひくようなやり方で暴力シーンを入れてしまうんだろうということです。でも、それだと「偶然による学習を可能にする」ということになりかねない。ですから、やはり描き方が大切なんですよね。

――どういうことでしょうか?

たとえばコミュニケーション学的な観点からいえば、「こんなにおもしろいことがあるんだよ。こっちに注目してごらん」というふうに誘導していくことで、うまく教育することができるんです。同じことが、ゲームにもいえるんですね。つまり「とにかく注目してほしいから」ということで派手な暴力シーンなどを入れれば、子どもには注目してもらえる。しかしそのとき子どもが「楽しい」と感じてしまうと、結果的には「暴力的なものは楽しい」という方向で学習されてしまうんです。

――『2009CESAゲーム白書』に掲載された「テレビゲームとレーティングの社会的受容に関する調査報告書」(2007年度)でも、暴力表現について触れられていますね。

佐々木:ゲームの弊害については、いろいろマスメディアで騒がれますよね。しかしマスメディアは極端な例を取り上げたがるので、「本当に問題だと思われているのか」「いろいろな苦情がどこにあるのか」が曖昧なままだったんです。そこで、あの2007年度調査ではその点を突き止めてみようということで、いろいろな領域で『苦情はないかな』と調べてみたわけです。

――やはり、暴力表現に対する苦情が多かったのですか?

佐々木:それほどひどい状態ではありませんでしたが、多少含まれていたのは事実です。先ほどお話ししたとおり、暴力表現は、注目させるのにいちばん有効で簡単な方法の一つですからね。

――そんななか、苦情を生まないためにはどういうことが必要でしょうか?

佐々木:たとえば私は「健康オタク」なんですけれど、商品を買うときは必ず「成分表」を見るんですよ。見たうえで、「これだったら買う」とか、「これだったら買わない」と判断を下すようにしているんです。ゲームも商品なわけですから、同じようにわかりやすい「内容表示」が必要かもしれませんね。今後は、そういう公正な情報提供が大切になってくると思うんです。

現時点で一番多いのは、「適性年齢の表示」ですよね。でも同じ年齢であっても、女の子と男の子とではちょっと違うじゃないですか。だからこそ、ゲームのパッケージに「中程度の暴力的なシーンが多い」というような表示があったとすれば、女の子は好みと違うものを買わなくて済むかもしれない。逆に「ラブロマンス的シーンが多い」という表示だと、女の子が買っても男の子は買わないとか。内容について細分化した表示があれば、とてもいいという気がするんですよね。

――暴力表現や性的表現のあり方についてはどうお考えですか

佐々木:生きている限り、暴力や攻撃性って人間には避けられないものですよね。ときには、自分を守るために暴力が必要になることもあるわけですから。たとえば、喧嘩が起これば自分を守るために暴力を使うこともあるでしょう。性的なものも同じで、性的な表現に興奮するっていうのはしようがないですよね。暴力や性表現は仕方ないけれども、許される場合と許されない場合がある。そういうところを、ゲームのなかでうまく表現する必要があると思います。

――そうなると、創造性が重要ですね。

佐々木:私は教育と関わっていますので、クリエイティブな教育がすごく必要だと考えているんです。ただ楽しめればいいっていうんじゃなく、創造性を育てられるゲームがあればいいなと思うんですよね。たとえば人間関係が上手になるゲームとか、夫婦関係が上手になるゲームとかがあってもいいと思うんです。

でも最近は時代物とか歴史物とか、子どもたちが興味を持てるゲームがありますよね。そういうゲームが好きな子は歴史オタクになったりして、その部分だけ知識が突出したりするじゃないですか。だから“Edutainment(注)”なんていう言葉が言い表してもいるように、エンターテインしながら勉強できるような、エンターテインメントのサブカテゴリーがあったらいいなと思います。


(注)Edutainment:Education + Entertainment から作られた造語。主に教育目的用ゲーム・エンターテインメントを指す。



佐々木輝美(ささきてるよし)
獨協大学経済学部、外国語学部卒業。米国シラキュース大学に留学し、スピーチコミュニケーション修士号(M.A.)を取得。国際基督教大学大学院で博士号(教育学)を取得。国際基督教大学教授。専門・研究分野は教育コミュニケーション。現在取り組んでいる研究テーマはメディア暴力の、子ども達への影響。教師と生徒のコミュニケーション。教育の技術革新の普及過程。著書に『メディアと暴力』(勁草書房)。


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