テレビゲームへの正しい理解を
馬場 章教授インタビュー
(東京大学大学院情報学環教授、日本デジタルゲーム学会会長)

第2回 教育におけるゲームの効用は大きい

yourou日本のゲーム研究の現状は?

――馬場教授が会長を務めておられる「日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)」の具体的な活動を教えていただけますか。

馬場:これまでもデジタルゲーム、テレビゲームを視野に入れた学会はあり、将来的には連携していきたいと考えていますが、日本デジタルゲーム学会はこれまでの学会とは少し違う活動をしたいと思っています。

私たちの活動にはいくつかポイントがあり、一つは学術面で国際的な連携を進めること。というのは、日本のゲーム産業は世界的な存在です。世界中でプレイされる優れたゲームソフトを生みだしていますし、そもそも世界の三大家庭用据置型ゲーム機のうち、二つは日本発です。にもかかわらず、ゲームの研究は非常に遅れているのです。学術の分野が産業界とバランスよく発達していく必要があるし、ゆくゆくは産業界と連携して、日本のゲーム研究をつくりあげたいと思います。

また、これまでのゲームに関する研究は、ほかの分野の研究者がたまたまゲームの分野に関係したというかたちが非常に多かったのです。例えば、心理学の研究で、ゲームをプレイしているときの人に与える影響であるとか、ニューメディアとしてのゲームに注目したメディア論研究であるとか、そういうスタンスですね。ところが、海外は違います。自分はゲーム研究者であり、ゲーム研究のために例えば社会心理学を勉強するというスタンスです。日本にはまだ、そういう研究者がいません。

ですので、二つめのポイントは若手の研究者を育てたいということ。私も、もともとは日本史の研究をやっていてデジタル技術に接し、デジタルゲームの研究を始めました。そうではなくて、最初からゲーム研究をめざして、ビジネス知識を持って研究するために経営学を勉強するというような、最初にゲームありきというゲーム研究者を育てていこうと、若手研究者の養成を重視しています。


エンターテインメント以外のゲームの効果とは?

――2005年から、高校の授業にオンラインゲームを取り入れ、教育効果を測定する実験・研究を続けていらっしゃいますね。内容を具体的に教えていただけますか。

馬場:「オンラインゲームの教育目的利用」というテーマで、多人数が同時に参加できる歴史シミュレーションのMMORPGを教材として高校の授業に取り入れ、実際に学生にプレイしてもらって、その教育効果を科学的に測定しようという研究をやっています。

エデュテインメント(※)といって、非常に面白い教材を学校の中に持ち込んで、子どもたちのモチベーションを高め、学習意欲を引き出すという試みは古くからあったのですが、私たちの研究ではエデュテインメントの一環としてやるのではなくて、「シリアスゲーム」の一環としてやっていこうと思いました。

――「シリアスゲーム」とはどのようなものですか。

馬場:エンターテインメントだけが目的ではない、それ以外の、それ以上のと言った方がいいかもしれませんが、目的や効果を持つデジタルゲームのことをシリアスゲームと呼んでいます。アメリカではもう20年以上も前にこの言葉がつくられていましたが、やっと最近日本でも使われるようになりました。ニンテンドーDSの「脳トレ」が出たことによって、実用的で、役に立つゲームがあるということが国内で認知されるようになりました。私たちの実験は、それを教育の現場で科学的に実証していこうというものです。


ゲームが教育の現場でさまざまな効果を発揮?

――どのようなかたちで実験を行っているのですか。

馬場:コーエーの「大航海時代Online」を使わせていただいています。このゲームは西洋中世を舞台にした歴史シミュレーションゲームで、当時のヨーロッパを非常に忠実に再現しています。世界史の授業で、一定時間ゲームをプレイしてもらい、その前と後にアンケートを取ったり、授業の様子を観察したりします。また、授業の成果をレポートや壁新聞にして発表してもらい、ゲームを使わなかったクラスとゲームを使ったクラスでどういう違いが出てくるかも調べます。

これまで4回、毎回実験のテーマを変えてやっていますが、MMORPGというゲームが確実に教育的効果をもたらしていることは断言してよいと思っています。

――どのような効果が出ているのでしょうか。

馬場:いろいろなレベルがありまして、一つはエデュテインメントと同じ効果ですが、子どもたちの学習意欲、モチベーションを引き上げる。これは明らかに効果が出ています。

二つめは、歴史上の地名や人名、あるいは事柄についての記憶も、ゲームを使ったほうが確実に定着しています。歴史の授業というのは本来、暗記物ではありませんので、どれだけ定着したのか、定着の期間とか量を比較するのは歴史の授業の本質ではないのですが、実験が終わったあとの定期試験では、ゲームをしたクラスは確実に平均点が上がっています。

三つめの効果は、世界観あるいは歴史観の形成です。これが本来の歴史の授業の目的ですが、たとえば大航海時代の世界観であれば、ヨーロッパ中世という時代を観念的に理解することができるかどうか、歴史観がどれくらい深く形成されるかという点でも効果を上げています。

教育の最終的な目標には人格の形成ということがあるかと思います。これにはいろんな要素がありますが、私たちの実験では科学的に計測可能なコミュニケーション能力を見ることにしています。しかし、歴史観の形成や人格の形成は非常に大きな問題ですので、今後もさまざまな角度から、そして多様な科学的方法で検証していく計画です。

――ゲームによって、本当にいろいろな効果が出ていますね。

馬場:極めて理想的な結果が出ており、正直に言って、実験をやった我々自身も驚いています。この結果を踏まえ、今後は新たな教育手法を開発する計画です。おそらく、教師が中心となって、児童・生徒に授業をするスタイルを取りながらも、子どもたちの自主性にある程度任せてゲームプレイをさせ、最後は課題を課して、子どもたちに協調的な作業を促していくという授業スタイルが一番よいのではないかと思っています。

幸いなことに、私たちと同じ目的を持つ研究が海外でも進んできています。2007年9月に開催された国際会議「DiGRA2007」にも、報告が寄せられていました。それらを総合することで、日本だからゲームが子どもたちに効果を持つのではなくて、そもそもゲームが持っている魅力や可能性が解明できるのではないかと考えています。


(※)楽しみながら学ぶことができるソフトウェア。「エデュケーション(education:教育)」と「エンターテインメント(entertainment:娯楽)」を組み合わせた造語。
馬場 章(ばば・あきら)
1958年茨城県生まれ。東京大学大学院情報学環教授。1988年早稲田大学大学院文学研究科 博士課程単位取得退学。東京大学史料編纂所助手、助教授、同大学院情報学環助教授を経て、2005年より現職。史料編纂所において専門の近世経済史の研究に加え、歴史史料のデジタルアーカイブ化に関する研究に取り組む。大学院情報学環では、ゲームを中心とするデジタルコンテンツの研究に従事。2006年、日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)の初代会長に就任。2007年にはデジタルゲームの国際学術会議「DiGRA2007」の大会組織委員長を務め、ゲーム研究の普及拡大に貢献している。近著に『上野彦馬歴史写真集成』(渡辺出版)など。

馬場研究室 http://chi.iii.u-tokyo.ac.jp/
日本デジタルゲーム学会 http://www.digrajapan.org/


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